おもひでぽろぽろの全セリフ

アニメ『おもひでぽろぽろ』の全セリフを紹介のサイトです。
1991年公開、監督・脚本は高畑勲。 主題歌はアマンダ・マクブルーム作詞・曲(ベット・ミドラー歌)の「The Rose」を高畑勲が日本語に訳し、都はるみが歌った「愛は花、君はその種子」。
このページでは、おもひでぽろぽろのセリフが一覧になって表示されています。

(課長) 10日も休暇取るっていうから

てっきり海外旅行だと

思っていたんだがね

山形の田舎へ行くんだって? 岡島君

(タエ子) はい

失恋でもしたの?

田舎にあこがれてるんです

またな

じゃあな

(ツネ子) ねえ 成績あがった?

(アイコ) ううん

でもいいの

(トコ) どうして?

おうち帰ったらすぐ

田舎のおばあちゃんの家に

行っちゃうんだもん

だから叱られるのは ずーっと先

(タエ子) わあ いいなあ

トコちゃんも田舎行くの?

うん 長野 タエ子ちゃんは?

わかんない

(ツネ子) あたしねー

パパが別荘買ったの

(3人) わーっ すごい!

(母) やっぱり算数ダメだったのね

うん でも理科は4になったよ

ねえねえ 夏休みどっか行くの?

別に

ねえねえ どっか連れてって

映画に連れてってあげるわよ

「つるのおんがえし」やってるんでしょ?

そうじゃなくて どっか田舎

田舎?

そう 田舎のおばあちゃんの家とか

おばあちゃん うちにいるじゃない

おじいちゃん!

(母) …は死んじゃったでしょ

うちは田舎がないの

ないものねだりしないでちょうだい

私は親の代から東京生まれの東京育ち

田舎を持ってる友だちが

うらやましかった

(ナナ子) 今からじゃ どこもいっぱいで

旅行なんてムリよ

でも どっか行きたい

(祖母) 大野屋は?

え?

大野屋ならよく行くから ひと部屋ぐらい

あけてくれるんじゃないかい

それ どこどこ?

そうよ 大野屋がいいわ

タエ子 行ったことないし

そうねえ…

ねっねっ それ山? 海?

(ヤエ子) 熱海よ

え… あたみ?

そうよ 新幹線乗れるわよ

そうそう あそこならいいわ

あたみ…

(ナナ子) おもしろいわよ

いろんなお風呂があって

そう

おっきいローマ風呂っていうのがあるのよ

そうよ

小さいお風呂もたくさんあるのよ

スワン風呂とか三色スミレ風呂とか

そう! 三色スミレ風呂!

三色スミレ風呂…

そうよ

すごくステキなお風呂なんだから

タエ子 お風呂大好きじゃない

(母) お父さんはお仕事だから

あなたたち4人で行ってらっしゃい

(2人) えっ

私たちも…

行くぅ?

(ラジオ体操の音楽)

(6年生) タエ子ちゃん

毎朝 ちゃんとラジオ体操来てエライわね

みんなは田舎へ行っちゃってるのよ

タエ子ちゃんはどこか行かないの?

行く!

どこ?

あたみ!

あたみ? あたみに何しに行くの?

お風呂入りに行くの!

ふうん…

でもちょうどよかった あたしもね

来週の月曜から親せきのうちに行くの

だからしばらくは

だれも来ないかもしれないわ

(コール音)

(ガチャッ)

もしもし 岡島ですが

あ ナナ子姉さん 私 タエ子

今日出発するけど ミツオ義兄さんから

本家に言伝てないかと思って

うーん 特にないみたい…

あっそうだ ナオ子ちゃんに

クッキーでも買ってってくれない

ミツオおじちゃんと私からって

あとで返すから

いいわよ よろしく言っといたげる

お母さんは?

今日はお出かけ

でも おこってたわよ

あなたお見合い断ったでしょ

27歳にもなって あんないいお話

もうないわよって

お母さんたらそればっか

でも考えた方がいいわよ

あなたも もう若くないんだから

そうかしら

そうよ

いつまでも“ルンルン気分”じゃダメよ

それにあなたも物好きねえ

去年は野良仕事まで手伝ったんだって?

そうよ 稲刈り!

今年はね 紅花摘むの

ベニバナ?

そう!

せっかくナナ子姉さんのおかげで

田舎が持てたんだもの

しっかり田舎の気分ば

味わってくるっす! フフフ

フフフ よしなさいよ

たまの休みなんだから

あんな古い家にとまったりしないで

オシャレなペンションなんかで

“おいしい生活”すればいいのに

ステキな彼氏にめぐりあえるかもよ

ダメダメ それじゃあ

大野屋の三色スミレ風呂になっちゃう

大野屋?

あーあーあー! この前聞いたあれね

ハハハハハ

あなた まだあんなことにこだわってるの

あなたって大変な過去を

背負って生きてんのねえ ハハハハ…

あの時 むろん姉さんたちは

熱海になんか行かなかった

ねえ おばあちゃん

ん…

まだあ?

ん…

ねえ お風呂行こうよ

さっき入ったじゃないか

でも スワン風呂だけだよ

わあ

すっかり退屈してしまった私は

グリム風呂を手はじめに

人魚風呂

レモン風呂

三色スミレ風呂と

お風呂のはしごをしたあげく

大きい

ローマ風呂にたどりついた時には

すっかりノボセていて

ハアハア スゴイなあ ハア…

(ラジオ体操の音楽)

あえなく卒倒…

期待の一泊旅行はあっけなく終わり

あとには長い長い

夏休みが待っていたのだった

(ラジオ体操の音楽続く)

この間 姉妹で集まった時

姉さんたちについこの話をしてしまった

そうそう そんなことがあったっけと

大笑いになり

あの頃の思い出話に花が咲いた  

(3人) わあーっ

(ヤエ子) 食べたことある?

(ナナ子) ない 初めて

あたしがおねだりしたんだからね

わかってるわよ

どこで買ったの お父さん

(父) 銀座の千疋屋

(母) 高かったでしょう?

これ どうやって食べるのかな

輪っかに切るのよ

どうやって?

知らない

お父さん お店の人に

聞いてこなかったんですか

うむ…

今度の日曜日に食べましょ

えーっ 今日食べないのーっ

だって食べ方わからないでしょ

んーっ

バナナ食べよっと

あっ あたしも

あったかい国には

めずらしい果物があるんだねえ

(戸が開く音)

ただいまーっ!

パイナップルの食べ方わかったわよ

(2人) えーっ ほんと!

これちょうだい

気をつけて切れよ

出刃包丁の方がいいんじゃない

わあーっ

いいにおい いいにおい

わあっ いい香り いい香り

なるほど

わあーっ

ホラ お皿お皿

えっ あっ そ… そうね

(父) いただきます

(5人) いただきまーす

カプッ

固い!

たいしたもんじゃないな

あんまり甘くないのね

缶詰とぜんぜん味がちがうよ

長生きするといろんな経験するよ

タエ子にあげる

あたしも

ハア おいしい…

ムリして食べることないわよ タエ子

腹こわすぞ

なーんだ つまんないの

バナナの方がずっとおいしいわね

ほんとほんと

やっぱり果物の王様はバナナかしらね

バナナ食べよっと

(テレビのスイッチ)

♪どうせ私をだますなら

♪死ぬまで だまして

♪ほしかった

♪赤いルビーの…

(タエ子) やっぱり 果物の王様は…

果物の王様は…

バナナだった!

ローマ風呂で卒倒し

初めてパイナップルを食べたあの年

ビートルズの来日をきっかけに

グループサウンズが流行しはじめ

あっという間にエレキブームが到来した

美大の一年生だったナナ子姉さんは

いつも流行の最先端

そう「ミッシェル」でしょ

ビートルズは歌詞がいいのよね

ミニスカートも真っ先にはいて

みんなとおんなじように 階段は

紙袋でおシリをかくしてのぼった

高二の秀才だったヤエ子姉さんは

それでも宝塚のなんとかさんに

すっかりお熱

ヤエ子姉ちゃん

ドア… ノックしてって

いつも言ってるでしょ!  

姉さんたちの思い出話は

自分のアイドルや

ファッションのことが中心だった

昭和41年ごろ

姉さんたちにはなつかしい青春の日々

でも私は 当時小学校5年生

ファンになったジュリーのタイガースも

まだデビュー前で

学校と家を往復するだけの生活に

たいした思い出があるはずもなかった

…ずーっと はり出してあったの

そう よかったわね

でね 東京都のね

読書感想文のコンクールにね

出すかもしれないから

大事にとっときなさいって

そうなったらうれしいなあ

(母) また給食 残して来た

え?

どうしてパンにはさんでくるの?

だっておなます キライなんだもん

こんなことしたら

もう食べられないでしょ もったいない

好き嫌いばっかりして

作文が ちょっとぐらい上手な子より

好き嫌いしないで

なんでも食べる子の方が

ずっとえらいのよ

ゴクッ ゴクッ…

フウッ ハア

(スー) すっげえ よく飲めんなあ

こんなマズイもん

ミルクは だいじょうぶなんだ

ダイコンとタマネギはだめだけど

オレ 今日はニンジン残すから

ミルクは飲まなきゃ

一種類だけしか

残しちゃいけないなんて

だれが決めたのかなあ

飲んであげようか

ほっ ほんと!?

そのかわり

こんどダイコンかタマネギ

食べてくれる?

うん うん うん うん

(スー) サンキュッ!

あっ ニンジン!

一個は残してもいいんだよーだ

ふーっ ゲプッ

やっぱ二杯目はきつい…

週番に“やりなおし”を言われても

そのまま

走っていってしまう人がいますが

あれは絶対にいけないと思います

“やりなおし”なんて

やってらんねえよなあ

(リエ) 廊下は走っちゃいけないのよ

(2人) そうよ そうよ

危ないでしょ ぶつかったりして

まさか トコなんかにぶち当たったら

こっちがはねとんじゃうよ

もう

ドテ

走っちゃったもんはもう仕方ないだろう

そうだ そうだ

“やりなおし”なんて廃止しちゃえば?

ダメよ きまりなんだから

意見のある人は手をあげて下さい!

ハイ!

谷さん

週番は

廊下を走った人を走っていってつかまえ

“やりなおし”をさせたらいいと

私は思います

ハイハイ ハイハイ!

鈴木くん

そしたら走った週番も

“やりなおし”を

しなきゃいけないと思いまーす

そうだ そうだ

“いいじゃな〜イ”

そうだよ

ハイッ

谷ツネ子さん

週番は“やりなおし”をしなくても

よいと思います なぜなら

週番はスピード違反の自動車を

つかまえるパトカーと

同じ役目だからです

(全員) ホーッ!

反対意見はありますか

パトカーだってさ

走っちゃだめよ

では週番は走っていって

“やりなおし”をさせても

よいことに決めます

ほかに議題はありますか

ハイッ

谷さん

またあいつ

でしゃばり

おしゃべりやめなさいよ

最近 給食を残す人がいます

私はこの間

雑誌でベトナム戦争の記事を読みました

外国にはかわいそうな人が

たくさんいるのです 私たちは幸せです

“しあわせだなあ”

オホン

食べ物は

大切にしなくてはいけないと思います

今は給食のおかずを

一種類なら残しても良い

ということになっていますけど

あまいと思います!

なんでえ ツネ子 いいカッコして

べーっ

ひとつぐらい残したって

いいじゃんかよ

そしたらみんなミルク残すよ

かわりに食べてもらうのもいけないの?

あたりまえでしょ

パンにはさんで残す人もいるんだぞ

えーっ ずるーい

給食きらーい

意見の…

(2人) 意見のある人は

手をあげて下さい!

“びっくりしたなあ もう”

あの晩 姉さんたちと別れて

ベッドに入ってからだった

5年生の時の

こんな思い出ともつかぬものが

突然 私の胸に

次々とよみがえって来たのは

飼っていたゴンという犬のこと

運動会のこと

楳図かずおのマンガにおびえたこと

電気エンピツ削りにあこがれたこと

こうしたほんの些細なことまでが

ありありと思い出され

それはまるで

映画のように私の頭を占領し

現実の私を圧倒してしまった  

岡島さんって人いますか?

あっ あの人よ

広田くんが5組の岡島さんのこと

好きなんですって

ウフフフ… アハハハ…

行こっ

ヒロに伝えてあげたよって言おーっと!

急いで早く!

ホラね

ふーん…

ねっ どこどこどこ?

あそこよ

あっ ほんとだ

わあ

ねっ

広田くんてどんな人?

知らない

私も

タエ子ちゃん 本当に知らないの?

し し… 知らない ぜーんぜん

(チャイム)

広田くんってどの人ですか?

あっ 5組の子だ

ヒロ 呼んでるわよ

ハーイ ぼくです

す… すけべ横町に

変なこと書かないで下さい

えっ

岡島さんがそう言ってました

オ… オレ 何も書いてない…

あらヒロ 5組の岡島って子が

好きだって言ってたじゃない

そうだよ そうだ

だから書いてあげたのに

えーっ

♪好きなんだけど チャチャチャ

♪はなれてるのさ チャチャチャ

♪遠くで星を

さよなら

♪みるように…

アハハハ…

タエ子ちゃーん

今 広田くんに会って来たわよーっ

えーっ

ちゃんと言って来てあげたからねっ

変なこと書かないでって フフフッ

あっ

ツネ子ちゃん!

あっ いけない

よかったね タエ子ちゃん

う… うん

こっちこっち

ホラホラあれよ 広田くんって

(スー) えーっ 4組の広田が

岡島のこと好きなの?

広田ってすごいんだぜ

エースなんだ

えーっ 野球の?

あいつの球打てるの 殿村ぐらいだよ

へえ そうなの…

(スー) 今度のクラス対抗

オレたちと当たっちゃうんだ

(応援団) ガンバレガンバレ 広田!

(先生) プレイボール

(スー) 殿村 打てよ!

かっとばせ!

ヒロ がんばって

岡島さんが見てるわよ

殿村くーん がんばれ

ストライーク!

いいぞ ヒロ

三振 三振

タエ子ちゃん

4組 応援したら承知しないからね

し… しないよ そんなこと

かっせーかっせー 殿村!

かっせーかっせー 殿村!

わーっ 行けーっ!

アウト!

キャーッ!

いいぞいいぞ 広田!

いいぞいいぞ 広田!

打てよ スー!

“一本足!”

ストライーク!

ストライーク!

ストライク バッターアウト!

すごい…

いいぞいいぞ 広田!

いいぞいいぞ 広田!

野球を知らなかった私にも

広田くんがスゴイってことだけは

わかって

ワーッ!

ホームラン ホームラン…!

いいぞいいぞ 広田!

どうしたの タエ子ちゃん

寒さと緊張のあまり

私は5回も

お手洗いに行ってしまったのだった

おーい こっちだ こっちだ

セーフ!

(トイレの水を流す音)

ゲームセット!

5対3 4組の勝ち

ありがとうございました!

キャーッ!

ステキ ヒロ!

ごくろうさん!

ヒロ すごかったなあ

スーがいけないのよ スーが

なんでだよ

よくわかんないくせに

殿村にも打てねえタマが

なんでオレらに打てるんだよ

そうだよ

(ツネ子) せっかく殿村くんがとったのに

スーがエラーしたからでしょ

3点とられたのは

ふう

おい 先生が全員に

アイスクリームおごってくれるってよ!

ほんとか

すげえ

ねえねえ ヒロ

岡島さんとこ行って来なさいよ

そうよ そうよ

あっ あたし… かっ かっ 帰る…

ホラホラ 早くホラ もう

どうしたの タエ子ちゃん

ホラ 帰っちゃった  

ハアハアハア…

あっ あの!

すけ! すっすけべ…

す す すけべよこ よこ よこ…

あ… 雨の日と

え?

くもりの日と晴れと

どれが一番好き?

く…

くもり

(ドスッ)

あっ おんなじだ

へへっ

雨の日と くもりの日と晴れと

どれが一番好き?

あっ おんなじだ

キャーッ! アハハハ…

私は今度の旅行に小学校5年生の私を

連れてくるつもりはなかった

(子供の笑い声)

でも一度よみがえった10歳の私は

そう簡単に離れていっては

くれないのだった

(電車の音)

(子供の笑い声)

でもどうして小学校5年生なんだろう

(先生) 4時間目の体育は

男子だけ野球をやる

女子は体育館に集合しなさい

(生徒) なんでー!?

わーい 野球!

“いいじゃな〜イ”

(ハイヒールの足音)

(保健の先生) 今日はみなさんに

大切なお話をします  

えー みなさんは

これから小学校を卒業して

中学 高校へと進み 大きくなって

赤ちゃんを産むんですけれども

女の人の体は赤ちゃんを産むために

準備をするんです

知ってた?

うん

ほんとに?

4年生の時に

お母さんから教えてもらった

私は発育がいいからって

ハツイク?

そうよ 身長が高い子や太った子は

早く生理になるんですって だからほら

榎本さんとか オノブとか

リエちゃんなんか

もう生理あるんじゃない

へえ…

ねえねえねえ…

アレ買う?

私は買う

やっぱり

タエ子ちゃんも買うでしょ

う… うん

買った方がいいと思うな

ホラ 保健の先生も言ってたじゃない

いずれ必要だって

そうよね!

おい 女子が保健室に

パンツ買いに行ってんの知ってるか?

えーっ!?

スー お前知ってた?

いいや

ねえ どうして?

どうしてパンツ買いに行くの?

そっ それはさ…

そのう…

なんで学校でパンツ売るんだ?

水泳パンツか?

えーっ!

中山君に話しちゃったの!

どうして言っちゃったのよ

男子には話しちゃいけないのよ

そうよ 女子だけのヒミツじゃないの

ハアッ

リエちゃん 中山君のこと好きだからねえ

教えてって言われたんでしょう

う… うん

(ドアの開く音)

どうしたの?

リエちゃんたら 生理のお話

中山君に言っちゃったんだよ

やだあ

中山君 みんなにしゃべるわよ

内緒よって言った

そんなの あてになるもんですか

(2人) ねーっ

(3人) ねーっ

やだなあ

男の子ってエッチなんだもん

スカートめくりどころじゃないわよ

おらっ

セーフ!

エッチ!

このスカートめくり全盛時代に

案の定

生理は はやってしまったのだった

セーフ! あっ 生理だ

キャッ!

もう!

待て この!

せ・い・り せ・い・と・ん

バカ!

痛いなあ

お前 生理だろ

ちがうわよ

リエちゃんのせいよね

ごめんね

何が

中山君にしゃべっちゃったこと

べーつに

でも大切なことだって

保健の先生も言ってたでしょ

そりゃそうだけど

私… 4年生の時 なったの

え… ほんと?

だから 体育ときどき休んでるでしょ

生理の時って体育休むの?

そうよ お母さんが休みなさいって

中山君 女の子って大変なんだなあって

言ってたのに

体育休むことも言ったの!?

うん

ほかの男子には内緒よって

約束したのになあ

そんなこと言ったら

体育休む子は

みんな生理だって思われちゃうじゃない!

えっ そう?

そうよ!  

コホン コホン

体育 休まないからね

だめよ

夏カゼはこじらせると大変なんだから

なら 学校休む

熱はないんだから行きなさい

なら体育もやる

勝手にしなさい

カゼが ぶりかえしたって知らないから

コホンコホン 行って来まーす

いつからあんなに

体育好きになったのかしら…

(チャイム)

タエ子ちゃん 顔がまっか

あっ ほんとだ

どうしたの?

カゼなの

熱があるんじゃない?

体育見学しなよ

そうしなよ

私 言ってきてあげる!

いいよ!

だって…

連絡帳 書いて来たの

なあんだ じゃ いいじゃないさ

ねえ

どけどけどけ!

わあ イテッ!

あたしも今日見学なの 一緒だね

(リエ) いいなあ…

ドッジボール やりたいなあ…

リエちゃん あの…

その… 生理なの?

うん

あたしはちがうのよ カゼなのよ

知ってるよ タエ子ちゃんは病気だもん

そう 病気なのよ 私は

生理は病気じゃないのにね

ハァ

あたし ドッジボールやれるのになあ

あっ

(男子) あっ 生理がうつる!

(リエ) えっ

さわるな さわるなっ!

あぶなかったあ

もう少しでうつされるとこだった

おーい こっちこっち

生理がうつるだって…

フフフ… バッカみたい

アハハハ…

お… おかしくないじゃない!

タエ子ちゃん?

あっ 生理のふたり組!

ちがうわよっ!

エッチね フフフ…

リエちゃん よく平気ねえ

だって悪いことじゃないって

うちのママ 言ってたけどなあ

そりゃそうだけど…

青虫はサナギにならなければ

蝶々にはなれない…

サナギになんか

ちっともなりたいと思ってないのに…

あの頃をしきりに思い出すのは

私にサナギの季節が

再びめぐって来たからなのだろうか…

たしかに 就職したての数年前とは

何かがちがっている

仕事でも遊びでも

私たちは男の子たちより明るく

元気がよかった

私たちは飛び立ったつもりになっていた

しかし今 思えば

あれはただ無我夢中で羽を

動かしていただけだったのかもしれない

5年生の私がつきまとうのは

“自分をふりかえって”

“もう一度はばたきなおしてごらん”

そう私に教えるためなのだろうか…

ともかく私は 残り少なくなった―

山形までの時間を眠ることにした  

(トシオ) あっぶねえやあ

ああーっ!

ああっ

ああ…

すみません!

あけぼの3号 行っちゃいましたか?

乗りおくれたのが あんた?

いや…

ああ…

あっ!

岡島タエ子さん… ですね

あっ あ… そうですが…

あー えがった

車 こっちです

あ… でもすみませんが どなたですか

あっ 覚えでませんか

覚えでるわげないですよね

オレ トシオです

あのカズオさんの マダイドゴ

あっ!

あっ そうだったんですか

アハハハ… いやだ…

あ… なんかおかしいですか

いえ ごめんなさい

私また ヒッタクリかと思っちゃって

えっ

いや それはヒドイなあ

ちゃんと名前確認したでしょう?

そうなの だからあたし フフッ

そそっかしくて

わざわざすみませんでした

いや

カズオ義兄さんは?

ああ それがきのう急に電話があって

お前 むがえに行ってこいって

雨だったんですか

うん だけど今日は晴れますよ

オヤジの車

借りて来ればえがったんだけど…

オレ この車 気に入ってるんです

ちょっとせまいけど どうぞ

(音楽が流れる)

あっ

つけでおいでいいですか

あっ はい

(音楽が続く)

めずらしい音楽ですね

ハンガリーの

ムジカーシュっていう5人組

えっ ハンガリー?

うん

くわしいんですか

ちょっとね 百姓の音楽

好きなんです オレ 百姓だから

わあ カッコイイ

へへへ でしょう! へへ…

去年 稲刈りのあど

本家で酒盛りやったでしょう

あんどき…

あっ ああ

うん あんどき若い連中が

ドヤドヤって顔出したでしょう

覚えてないがな

じづは若い娘が

東京から来たっていうがら

のぞぎに行ったんですよ

オレ そのながの一人

へへ…

あっあっ あ…

バァガ このぉ!  

紅花摘みに来たって…

染色でもやってるんですか

いいえ ただの物好き

ほら 紅花ってめずらしいでしょ

あ… こっちの人には

めずらしくないでしょうけど

いやあ 名前ばっかり有名でね

とうの昔にすたれた特産品ですから

オレんどごも作ってねえし…

でも江戸時代はスゴかったんでしょう?

そう 紅花大尽とかね

もうげた人にはスゴかったんでしょうが

百姓には ただの作物ですからね

えーと…

行く末は 誰が肌ふれん 紅の花

って知ってますか

ええ… 芭蕉の句でしょ

来る前に調べたから

あっそうですか

へへ いや じづはオレも一夜漬けで

まあ フフフフ…

ああ あのね

その本に書いてあったんですけどね

花摘みをする女だぢは

一生にいっぺんだって

紅なんかつけられながったって

ここで芋煮会なんかやるんでしょう

そう 河原が人で

いっぱいになるんですよ

農業は今も大変なんでしょう

減反とか自由化とか

ああ もう大変大変

こんなごどしでだら 日本の農業は

滅びてしまうんじゃないがな

ある日突然 バッタリとね フフ

でもね 大変大変っていうけど

一生懸命やってる仕事なら

大変でない仕事なんてないでしょう?

都会の仕事だって

それは同じじゃないですか?

ええ…

でも仕事が生き甲斐っていう人は

だんだん減ってるみたい

タエ子さんはどうなんですか

えっ 私?

うん

私もちがうと思う…

仕事 イヤじゃないですけどね

オレはね

一生懸命やれそうなんです 農業

面白いですよ

生ぎものを育てるっていうのは

畜産の方を?

あ? ハハッ

そうじゃないです

牛もニワトリも飼ってるけど

畜産じゃなくてホラ イネだって

リンゴだってサクランボだって

生ぎものでしょ

ああ

うん

こっちが好ぎで一生懸命 面倒みでやるど

向こうだってその気になって

がんばってくれるような気がするんです

ちょっとカッコよすぎたかな

いや そんなことない…

わかるような気がするわ

じづはオレ

ついこの前まで会社に勤めでいて

百姓としてはまだカケダシなんです

両親 元気だから

ああ… そうだったんですか

うん んだから威勢のいいごどが

言えるのかもしれないけど

必要なんですよね 勢いが

有機農業の先輩にひっぱられて

会社やめで バガだって言われたけど

今んどごろ後悔してませんよ

有機農業って?

ゴホン!

勇気の出る農業 勇気の要る農業

っていうのは冗談で うん 有機物の有機

あの堆肥なんか使って

農薬や化学肥料は

できるだけ使わない農業のことなんです

あっ 聞いたことある あの…

無農薬とか低農薬とか

ああ そういう消極的な言い方じゃなくて

生きもの自体が持っている

生命力をひきだして

人間はそれを手助けするだけっていう

カッコイイ農業のことなんです

はあ…

まっでも この手助けっていうのが

えらぐ大変なんだ

(トシオ) 直接 畑に連れで来てくれって

頼まれたんだけど…

(タエ子) ええ すぐ手伝うの

(トシオ) あ… 寝ないんですか

(タエ子) あら だって紅花は

朝露でトゲのやわらかいうちに

摘むんでしょう?

(トシオ) ああ そりゃま そうだけど

(タエ子) 私 ヨイッパリだから

一気に朝型の生活にかえるには

夜行で来るのが一番だって考えたの

(トシオ) へえ がんばるんですね

あれね!

おはようございまーす!

(キヨ子) タエ子さん よぐ来たごと

またお世話になります

おばあちゃん お元気でなにより!

(ばんちゃ) よぐ来た よぐ来たなあ

(カズオ) 疲れでないかあ

いいえ ちっとも!

一応おふとんは

敷いでおいだんだげっとよー  

だいじょうぶ ホラ元気いっぱい!

あれえ モンペなんかはいで

張り切ってるでねえの

フフフッ でも用意したのはこれだけ

いやあ 今どぎ ここらの若妻でも

メッタくてはがね

タエ子さんの方がよっぽど本格的だあ

んだんだ

フフフフッ

タエ子さん!

コラ!

わあっ うわあ…

アハハハ…

こうして私の二度目の

田舎生活が始まった

この黄色い花から

どうしてあんなに鮮やかな

紅色が生まれるのだろう

キヨ子義姉さんが

悲しい言い伝えを教えてくれた

昔はゴム手袋のようなものはない

娘たちは素手で花を摘み

トゲに指さされて血を流す

その血がくれないの色を

いっそう深くしたというのだ

一生 唇に

紅をさすことのなかった娘たちの

華やかな京女に対するうらみの声が

聞こえて来るような気がした

ひと握りの紅をとるには

この花びら60貫が必要で

玉虫色に輝く純粋の紅は

当時でさえ金と同じ値段だったという

フウッ

わあっ

水洗いした花を踏んだりもんだりして

水と空気に充分ふれさせると

黄色い花びらは酸化して

しだいしだいに赤味を増す

さらに2〜3日ねかせれば

花は発酵してすっかり赤くなり

粘り気を帯びてくる

これを臼でついてしぼったあと

ダンゴに丸めて押しつぶし

天日で乾燥させれば

やっと紅の原料となる花餅ができあがる

しぼりだした廃液も

昔はムダにしなかった

黄色い廃液の中にふくまれる紅の色素を

そのまま布にしみこませるのが

紅花染めで

(2人) 染まれー 染まれっ!

紅花染めなら 色よく 染まれ

色がよければ 気がいさむ

紅白粉や派手な着物に

縁のなかった村の女たちは

この紅花染めをして

つつましい暮らしに彩りをそえたという

黄色い色素は水に溶け去り

木綿や麻は美しい薄紅色に染まる

わあ きれい!

今では機械を入れたり

いくぶん手間を省いてはいるけれども

こうした作業のすべてを

毎日 花摘みをしながらくり返す

花餅はカビやすく

花は摘みどきがあって待ってはくれない

やっと摘み終えてふりかえってみると

いつの間にか また新しい花が咲いている

フウッ

梅雨の雨は容赦なく降り注ぎ

時には仕事が深夜に及ぶこともある

あっという間に一日一日がたち

私は快く疲れ

遠い昔の花摘み乙女の身の上を思った

もし子供の時

こんな手伝いをやる機会があったら

読書感想文なんかじゃなくて

もっと生き生きした 作文が書けたのに…  

(ナオ子) ねえ母ちゃん 五千円

五千円? ほだな大金ねえよ

あだらしい運動靴

買ってくれるってゆったべ

運動靴がほだいするのが

うん

まさが

プーマのだもの!

プーマ?

うん プーマ

プーマだがなんだが知しゃねげんと

もっと安いのあんべが

今はいでるのとおんなじのは?

あだなダサイの もうだれもはいでねえ

みんなプーマのスポーツシューズ

買ってもらってるんだから

(キヨ子) みんなって だれ?

(ナオ子) カコちゃんだべ

メグちゃんだべ

それがらヤッちゃんにノンちゃん

(キヨ子) ホレ たった4人でねえが

(ナオ子) ほがにもいるよ

みんなはいでるんだから

(キヨ子) ダメダメほだな

手伝いもロクにすねえで

(ヤエ子) あんた また

バービーさんのドレス

買ってもらったんだって

誕生日でもないのに

クリスマスとか

誕生日だけにするっていう

約束じゃなかったの?

ほんっとにお父さん

タエ子に甘いんだから!

そうだったのか ター坊

思いがけず

また5年生の私が姿をあらわした

だってぇ…

ヤエ子姉ちゃん

振袖買ってもらったんでしょ

成人式でもないのに…

お茶会で着るのよ

あたしたちはね あんたみたいに

こまごましたモノ買ってもらわないで

たまにドーンと買ってもらうのよ

ねっ

そっ!

いいかげんにしなさいよ

好き嫌いばっかりして

お父さん タマネギ好きだもんね

ああ

振袖のことだけど どうせのちのち

あんたの所へいくんだもの

いいでしょ

お古ばーっか

あら お古だって

着られない子もいるのよ

そうよ そうよ

そんなら早くちょうだいよ

あのエナメルのバッグ

あら まだあげてなかったの

あんな子供っぽいの

早くタエ子にあげちゃえばいいのに

いらない

ハンドバッグ いらない…

あっそ ならいいわよ あげない

新しいのは買ってあげませんよ

いいもん!

あーよかった

私アレ 気に入ってたのよね

ぜんぜん 嫌いだもん

おいメシ

これ なんとかしろ

ほらね 結局捨てちゃうのよ

もったいないわね

捨てちゃダメ

ねえ お母さん

あんたがよけたんでしょ

そんなこと言うなら

今度からちゃんと食べなさい

(祖母) うちの子は みんなわがままだよ

ねえ お父さん

エナメルのバッグ買って

ヤエ子姉ちゃんが くれないんだもん

お前がいらないって言ったんじゃないか

だってえ

いらないって言ったんだから

がまんしなさい  

早く支度しなさいよ

うーん…

やっぱりこっちの靴にしよっと

ねえ どうして

ヤエ子姉ちゃんも行くの?

お父さんとお母さんと

私の3人で行くって言ったじゃない

(フスマの開く音)

予習が終わったから行くの!

私が行っちゃいけないって言うの?

中華料理ですもの

みんなで行った方が楽しいじゃない

だっておばあちゃんは

行かないって言ってたよ

おばあちゃんは

脂っこいものは嫌いでしょ

行きたくないなら

あんたも待ってれば

(のどじまんの鐘の音)

(テレビの音)

ほら 行くわよ タエ子

うーん…

早くしなさいよ グズ

ハンドバッグがないんだもん

ヤエちゃん

あのエナメルのバッグ貸してあげなさい

♪その小さな目 つぶらな瞳

♪はじめまして 私がママよ

ほら

いたあ…

さっ 行くわよ

あたし 行かない

あっそ お母さん行きましょ

じゃ おばあちゃんと待ってなさい

なんだ ター坊は行かないのか

行かない!

(父) じゃ 行こう

(戸を閉める音)

あたしも行くぅ!

はだしで!

お父さん!

お父さんやめて下さい

わーん

わーん わーん

(ヤエ子) ボタンがとれた…

わーん…

お出かけはもちろん中止

ほっぺたがはれて

タオルで冷やしたんだけど

いつまでもジンジン痛むの

どうしてあたしだけが

こんな目に遭うんだろう

あたしはもらいっ子なんだ

きっとそうだわ なんて

その晩なかなか寝つかれないの

フトンの中でシクシク泣いちゃった

お父さんに叩かれたの それがはじめて?

うん 初めてで終わり 一回だけ

ふーん…

あたしなんか とぎどき

でもないけど 何回かあるよ

時々なら時々の方がいいのかもよ

一度だけだと じゃあどうして

あの時って考えちゃうのよね

でもタエ子姉ちゃんが子供の頃

ワガママだったなんて 信じられない

わがままでね

好き嫌いもタマネギだけじゃなかったし

ああ なんだかあたし安心しちゃった

わっ 困る困る

こんな話して安心されたんじゃあ

お母さんに申しわけが立だねっ!

フフフッ

あたし プーマの靴あきらめる

えらい!

じゃあ…

おこづかい 奮発しちゃおうかな

ヤッタネ

フフフッ  

フフフ フフフ…

ブアーッ ウン?

(ナオ子) こらーっ

オウッ

一本百円!

ハハハ ハハハ

タエ子さん 明日

蔵王へドライヴに行きませんか

息ぬきに

蔵王?

うん

山寺は去年行ったって聞いだから

あっ 先に本家のOK取って来た

まあ…

(クラクション)

蔵王の眺めは素晴らしかった

でも蔵王は蔵王

すっかりリゾート地帯になっていた

タエ子さん なして結婚しないんですか

えっ あ… 結婚しないとおかしい?

あ いやあ そんなこどないけど…

今は仕事をする女性が増えてるでしょ

私の友だちでも

結婚してない人の方が多いくらいよ

ああ そっか

うん そうよ

んだべな

うん そうよ

そうか

そうよ それがあたりまえ

ふーん…

ねえトシオさん

ん?

小学校の時

分数の割り算 すぐ出来た?

は?

分子と分母ひっくりかえして掛けるって

教わった通りにすんなり出来た?

うーん 覚えでねえなあ…

ま でも算数

そんなに苦手でもなかったけど

あ そう

うん

いいわねえ

覚えてないのは

すんなり出来たからよ きっと

いや でもなして急にそんなこと…

分数の割り算がすんなり出来た人は

その後の人生も

すんなりいくらしいのよ

は?

リエちゃんていうね

おっとりした子がいたの

算数ぜんぜん得意じゃなかったけど

素直に分子と分母ひっくりかえして

百点!

その子はずーっと素直にすくすく育って

今はもうお母さん

2人の子持ちよ

ふーん

私はダメだったのよねえ…

アタマ悪いくせにこだわるタチなのよね

あの… あのね…

こ… のテストの前… ね

図工だったの でもって… ね

吹き絵をやったの

吹き絵?

そう

画用紙に絵の具をたらしてね

ふーって吹いて模様つくっていくの

それで?

ふーって吹くでしょ ふーって

だから?

あたま… 痛くなっちゃったのよね

ふーってたくさん吹いたから

それで このお点なの?

そ… そうなの

そう…

フゥッ

まちがったところの

正しいお答え分かってるの?

え?

正しいお答えよ

う… うん…

ヤエ子姉ちゃんに

教えてもらっときなさいよ

ヤエ子姉ちゃんに?

そうよ ナナ子お姉ちゃんでもいいから

うーん ナナ子姉ちゃんにする!

(ドアの閉まる音)

ナナ子姉ちゃん まだ帰ってないから

夕ごはんのあとでやっていい?

(母 答えてくれない)

ヤエ子姉ちゃんに教えてもらう…

お母さん!

お母さん お母さん!

なっ なによこれ

どっ どうしてなの!

教えてやってちょうだい

全然わかってないらしいの

だ だ だ… だってだって

いっくらなんだってどうしてなの!

だから教えてやってよ

タエ子

頭どうかしちゃったんじゃないの!

教えてやってって言ってるでしょ

だって普通にやってれば

こんな点とるわけないわよ!

だから普通じゃないの タエ子は!

(母) タエ子

ヤエちゃんに教えてもらいなさいね

吹き絵で頭が痛かったのよね

ねっ タエ子  

すわんな

九九をはじめから言ってみなさい

九九なんて言えるわよ

もう5年生だよ

九九が出来るなら

どうして まちがったのよっ

だって 分数の割り算だよ

ハアッ

分母と分子をひっくりかえして

掛けりゃいいだけじゃないの

学校でそう教わったでしょ

うん…

じゃ どうしてまちがったの?

ヤエちゃん ひとつずつ教えてやって

ハア

分数を分数で割るって どういうこと?

え?

3分の2個のリンゴを

4分の1で割るっていうのは

3分の2個のリンゴを

4人で分けると

ひとり何個かってことでしょ

ん? うん…

だから 1 2 3 4 5 6で

ひとり6分の1個

ちがうちがうちがう…

それは掛け算!

えー どうして?

掛けるのに数が減るの!?

3分の2個のリンゴを

4分の1で割るっていうのは…

とにかく!

リンゴにこだわるから わかんないのよ

掛け算はそのまま

割り算はひっくり返すって

覚えればいいの!

(テレビの音)

♪なにも言わないで ちょうだい

この人の妹 宝塚?

SKD

タエ子 算数2なのよ

えーっ 2!?

そうよ ついに2になったのよ

フウッ

50点とか60点とかっていうんなら

叱りようもあるけど…

そうよね

タエ子 IQ調べてもらった方が

いいんじゃない?

入学の時には

普通だって言われたんだけど…

バカになったのかもよ

タエ子 赤ん坊の時

2階から落っこったでしょ

そうそう 歩行器に乗ったまんま

あの時は死んじゃったかと思った

タンコブ作っただけでしょう

あれが今ごろになって

そうよ きっとあれよ

(母) まさか…

算数がとびぬけて出来ないだけだもの

(ナナ子) 授業中おしゃべりばかり

してんのよ

(ヤエ子) ちゃんと聞いていれば

分数の割り算なんて簡単だもの

バカだって出来るわよ

(ナナ子) あれじゃ先が思いやられるわ

来年もう6年生でしょ

だって…

3分の2個のリンゴを

4分の1で割るなんて

どういうことか

ぜーんぜん想像できないんだもの

だってそうでしょ

3分の2個のリンゴを

4分の1で割るっていうのは…

今 考えてみても

やっぱり難しいのよね

分数の割り算

うーん…

そうですよ

オレら百姓ももっと

こだわらなきゃいけなかったんですよ

長いものにまかれっぱなしで

都会のあどばっかり追っかけて

自分を失ってしまったんだ

んだから 本当の豊かさっていうのは

何かって考えて

昔からの農業にもういっぺん

こだわってみる必要があるんですよ!

びっくりした

それで有機農業っていうわけ?

うん

エヘヘヘ

これあの 先輩の受げ売り へへへ

いや でもね オレもそう思うんだ

タエ子さんが分数の割り算に

こだわったこと 大事にしてるの

えらいって思いますよ

いや そんなつもりで

話したんじゃないのに

それより私なんか

いいところにお勤めですね

なんて言われるんだけど

べつにのめりこめるような

仕事じゃないし

トシオさんが自分の仕事っていうか

農業のことに 夢中になってるの

とっても感心しちゃう

アハハ

それ 皮肉ですか

えっ まさか

いや あんまりいないのよね

そういう人

あっ フフッ

今 農業が完全に斜陽でしょう

何も考えねえで

仕事って割り切れるような状態だったら

いいんですけどね

そうじゃないから

いろいろ考えちゃうんですよね

仲間と勉強したり

それによって自分を励ましたり

支えたりしなきゃ

とってもやっていけないんで

ないかなあ…  

タエ子さん スキーやるんでしょ

会社の人に連れられて2〜3回

じゃあ今度 冬に来ませんか

オレ 教えますよ

スキー得意なの? トシオさん

いやあ 大したことないけど

冬はここで指導員のバイトやってるから

えっ 指導員 じゃあ上手なんだあ

いっぱいいますよ 仲間に指導員なんて

(セミの鳴き声)

あーっ やっぱりこれが田舎なのね

本物の田舎 蔵王はちがう

(トシオ) うーん

田舎かあ…

あっ ごめんなさい 田舎 田舎って

いや それって大事なことなんですよ

え?

ウン

都会の人は森や林や水の流れなんか見で

すぐ自然だ自然だって

ありがたがるでしょう

でも ま 山奥はともかぐ

田舎の景色ってやつは

みんな人間がつくったもんなんですよ

人間が?

そう 百姓が

あの森も?

そう

あの林も?

そう

この小川も?

そう

(トシオ) 田んぼや畑だけじゃないんです

みんなちゃーんと歴史があってね

どこそこのヒイじいさんが植えたとか

ひらいたとか

大昔からタキギや落葉や

キノコをとっていたとか

(タエ子) ああ そっか

(トシオ) 人間が自然と闘ったり

自然からいろんなものをもらったりして

暮らしているうぢに

うまいこと出来上がってきた

景色なんですよ これは

(タエ子) じゃ 人間がいなかったら

こんな景色にならなかった?

(トシオ) うん 百姓は

たえず自然からもらい続けなきゃ

生きていかれないでしょう?

うん だから自然にもね

ずーっと生きててもらえるように

百姓の方もいろいろやって来たんです

まあ 自然と人間の

共同作業っていうかな

そんなのが多分 田舎なんですよ

そっか… それでなつかしいんだ

生まれて育ったわけでもないのに

どうしてここが

ふるさとって気がするのか

ずーっと考えてたの

ああ… そうだったんだ

ああ 腰が痛くなっちゃった

有機農業―

ちっともカッコよくないじゃない!

ハハハ カッコイイのは理念の話

前にゆったでしょう

生ぎものの手助けっていうのは

えらぐ大変だって

でもこれじゃあ

百年前と変わらないじゃない

んだから 有機米っていっても

一回だけは除草剤使って

こういう大昔と同じ草取りは

しないのが多いんです

とっても人手が足りないがら

うーん…

精が出るごとなあ タエ子さん

お茶にすねえが

ああ 助かった

ひと休みしたいと思ってたとこ

トシオさんは私に少しずつ

いろんなことを経験させてくれた

私はすっかり

田舎を知ったつもりになって得意だった

いいなあ…  

(カラスの鳴き声)

あっ カラスがおうちへ帰っていくわ

一羽

あーっ

やっと本物の村でこれが言えたわ

フフッ

これ 5年生の時の学芸会のセリフ

私「こぶとりじいさん」の

村の子1だったの

ハハ なーんだ ハハッ

いや そういえばオレも

その他大勢しかやったごどないなあ

ナオ子ちゃんは?

うーん けっこう大役ばっかり

だって人数が少ないんだもん

んだべな これだぢの生まれた頃は

もう出稼ぎが多くなってたし

ホラ いわゆる村の過疎化がすすんで

わげえもんも

子供も減っちゃったんですよ

ああ なるほどねえ…

じゃあ いろいろ面白かったんじゃない?

ううん 運動会の方が好ぎ

私 意外と走るの速いんだ

いいわねえ 私なんかいつもまん中へん

学芸会も村の子1だし…

でもね

さっきのは

一生忘れられないセリフなの

だってあのセリフのおかげで

スターになれるはずだったんだもん

スター?

そう

スターって?

村の子1で?

そう

おじいさんでも オニでもなくて?

そう ウフ

私 すごく張り切ってたから

よっぽどかわいがっだのがな?

そうじゃなくて!

うちの鏡の前で猛練習したのよ

でもなあ 村の子1だら…

そうなの

セリフがあんまり短かすぎて

何度やっても物足りないの

あっ カラスがおうちへ帰っていくわ

一羽… だけですもんね

わがった セリフ増やしたんだ!

当たり!

あっ みてごらん

カラスがおうちに帰っていくわ

一羽

二羽

三羽

四羽

さようならカラスさん

気をつけてねーっ

(4人) わーっ

(トシオ) それで先生にほめられだ

(タエ子) その反対

はい とてもよくできました

けれど…

台本に書いてあるセリフだけを

言いましょうね

とれれれ とれれ

とひゃらら とひゃら

すとすと すととん

すっとん とん

(ナオ子) せっかぐ工夫したのに…

(タエ子) たしかに

あんまり良くなかったから

すぐあきらめがついたけど

でも それで意欲を

失ったわけじゃなかったの

セリフにないところは

動作で表現すればいいんだってことに

気がついたのよね

(4人) わーっ

あっ

あっ カラスがおうちに帰っていくわ

(カラスの鳴き声)

一羽

二羽

三羽

四羽

フゥッ

(4人) わーっ

(鐘の音)

たったこれだけ フフッ

でも努力の甲斐があって

村の子1の演技は

評判になっちゃったの

信じられないでしょうけどね

児童劇団に入ってるのかって

お母さんが聞かれたり

よそのクラスの先生が

ほめて下さったりね

ところが もっとすごいことが起きたの  

ごめん下さい

(母) はーい

なにしろ私の目の前で

いきなりダイナマイトが数十個

ドカンチョとバクハツしたのですぞ

したのですぞ

(母) え? タエ子を?

まあ でも…

(学生) 文化祭でやる芝居に

子役が必要なもので

その…

学生と市民の連帯のために その…

ぜひ岡島タエ子ちゃんに

出演してほしいと思いまして

子役!

(学生) そういう状況の中で

稽古は土曜日の昼間とか

時間もおそくない時にやりますので

(母) はあ でも…

あの…

帰りはきちんとお送りしますから

大人の芝居に出るの?

あんなへたっぴいな みんなとじゃなく

大人と一緒に出られる!

スターだわ!

♪あうあうあうあ

♪さわやかな 私の一日

♪コケコケ コケコケ コケコッコー

♪コケコケ コケコケ コケケッコー

♪コケコケ コケコケ コケケッコー

♪コケコケ コケコケ コケケッコー!

お…

お母さーん!

ねえねえ

日大のお兄さんが

タエ子にお芝居に出てほしいんだって

タエ子 学芸会で光ってたものねえ

で? で?

お母さん

よろしくお願いしますって

頭さげられちゃったわ

へえ すごいじゃない

ひとつぐらいとりえはあるもんね

あら タエ子は作文だってうまいのよ

タエ子は算数よか そっちの方に

才能があるのかもしれないね

そうなの そうなの

あたしなんか

舌切りスズメのおじいさん役やったけど

お誘いなんか来なかったもんねえ

でしょ でしょ

で 出るの?

これがキッカケで

本職の子役になったりして

わあ

宝塚入りなさいよ

そうよ 今からでも練習すれば

入れるかもよ

ハハハ ハハハ

演劇なんてダメだ!

芸能界なんてダメだ

そんなあ 芸能界なんてオーバーよ

そうよ そんな… ねえ

ダメだ

メシ!

はい

お父さんってかたいのよね

ねえねえ どうして

本職の子役なんて言ったのよ

お風呂 先入っていい?

いいわよ

宝塚とかさあ

芸能界とか言うからさあ

ねえねえ

なんであんなこと言ったのよ

ナナ子姉ちゃんたらあ

しつこいわね

♪プアボーイ プアボーイ

♪かわいそうな トラヒゲ…

(学生) そんなにお時間とらせませんから

(母) ええ でも…

(学生) ぜひお願いします

(母) 本人が… 恥ずかしがって…

はあ…

内気なもので…

何度も足を運んで下さったのに

本当にどうもすみません

♪ …プアボーイ プアボーイ

♪うちから遠くはなれて

♪プアボーイ  

(タエ子) でさあ 私のかわりに

1組の青木さんが出ることになったのよ

(母) そう…

青木さん みんなにふれまわってるんだよ

そう

今日なんか お母さんが学校に

むかえに来てさ

青木さん お洋服よそゆきのと

着がえて日大に行ったんだよ

こーんなヒラヒラしてるやつでさ

タエ子

え?

日大のお兄さんが

最初にタエ子のところに来たってこと

学校で言っちゃダメよ

え?

そんなことわかったら

青木さん いやな気持ちになるでしょう

わかった?

わかったの?

うん…

フウッ

(テレビの音)

子供ニュースでした

♪波をチャプチャプ チャプチャプ

♪かきわけて

♪チャプチャプチャプ

♪雲をスイスイ スイスイ追い抜いて

♪スイスイスイ

♪ひょうたん島はどこへゆく

♪ぼくらをのせて どこへゆく

♪まるい地球の水平線に

♪なにかがきっと 待っている

♪苦しいこともあるだろさ

♪悲しいこともあるだろさ

♪だけどぼくらはくじけない

♪泣くのはいやだ 笑っちゃお

♪すすめー ひょっこりひょうたんじーま

♪ひょっこりひょうたんじーま

♪ひょっこりひょうたんじーま

かわいそう タエ子ちゃん

私 高校に上がったら

すぐ演劇部に入ったの

あの時のこと

忘れられなかったのよね やっぱり

それで?

楽しかったわよ 役者もやってみたの

でも向いてなかった

だから スターになりそこねた

っていうのは残念ながら冗談 ウフフッ

でも…

オヤジっていうのは 東京も田舎も

おんなじようなもんだったんだなあ…

オレ 高校の頃

どうしても東京さ出だくってね

ああっ

ミツオさんに 進学のごどで

相談の手紙書いたごどもあったんですよ

そうだったんですか…

あぎらめてからも

オレより出来の悪かったやつ

帰省してきて 東京風吹かしたりされるど

やっぱりくやしくてね

あっ 今ちがいますよ

今オレ オヤジのごど

少しは尊敬してるんです

百姓の先輩どして

でもわがるなあ タエ子ちゃんの気持ぢ

いや だから私のはただの冗談

いやあ同じですよ わがりますよ

だけどぼくらはくじけない

泣ぐのはいやだ 笑っちゃお か…

エヘ オレも見てたんですよ

「ひょっこりひょうたん島」

えっ ホント!?

うん マシンガン・ダンディ

かっこえがったもんなあ…

私の憧れの人!

ハハハ わがるわがる あっ

そういえば あの頃のうだって

励ましのうだ 多かったと思いませんか

あー 「ひょうたん島」にも

まだあったなあ… あの…

ホラ 今日がダメなら明日があるさ

明日がダメならあさってがあるさ

(2人) あさってがダメなら

しあさってがあるさ

どこまでいっても明日がある

ドンドンガバチョ ドンガバチョ

ハハハハ…

ハハハ 変なうだ!

トシオさんは

今日がダメなら明日にしましょ

という一日のばしの歌を

明日があるさ

と前向きにして覚えていた

そんなトシオさんの生き方が

ステキに思えた  

(ばんちゃ) 帰ってしまうのが 明日

はい

長い間ほんとにお世話になりました

おばあちゃんもお達者にね

ありがとうさま

タエ子さん あんた こごが好ぎか?

ええ とっても

もうすっかり自分のふるさとみたい

んだか そりゃうれしいなあ

オレは生まれでこのかだ

こごしか 知しゃねぐて

東京さ行ったのも

ミツオとあんたの姉さんの

結婚式のとぎだけだげんと

ほんとうに東京よりこごがいいのかあ

ええ そりゃあもう…

東京はゴミゴミしてて

ビルと車だらけで

もう人の住むところじゃないみたい

そんな東京から来たら

もうここは別世界です

んだが…

ほだい気に入ってくれだのが こごが

ええ 自然がいっぱいで

みんな親切で

タエ子さん あんた来てくれねえべが

トシオのとごさ

え?

ミツオが東京の人になってしまったがら

こごが気に入っているあんたが

かわりにトシオの嫁に

来てくれるっていうのはどうだべ

ばんちゃん…!

母ちゃん ヤブから棒にほだな…

タエ子さんがびっくりしてるでねえがや

考えでおいでけろ な タエ子さん

ハハハハ 気にしないで下さい

冗談ですよ

な 冗談だべ ばんちゃん

いいや オレはマジメだ

お前だぢだって

そうなってもらいだいんだべ

ほだな…

もらいだいどが

もらいだくないどがっていう

そりゃ そうなってもらいだいよ

んでもよ タエ子さんは東京の人だって

アダマから決めてだっけからよぉ…

んだよ

んでもよ

タエ子さんここば気に入ってるんだし

野良仕事もがんばるし

見ででとっても気持ぢいいもんなあ

そりゃあ

トシオさんどごさ来てくれだら

こだないいごどないけんど

(カズオ) 何ゆうんだお前まで

タエ子さんに失礼でねえがや

タエ子さんは東京に

れっきとした勤め口があるんだし

トシオは年下でねえが

あら

勤め口なら山形にもあるでねえの

タエ子さん おごらないで聞いで

今の農家の若い嫁さん

みんな勤めに出でんの んだから

何で急にこだな話はじめるんだ

タエ子さんは休暇を

楽しみに来てるんでねえが

それもたったの二回だぞ

こだな話 急にされでも

困るだけだべだよ

んだらあんたは反対?

ほだなことゆってるんでねえって

現実的に考えろってゆってるんだ

だいいぢ

トシオの気持ぢば聞いでもみねうぢに

ばんちゃんは

ほだなごど

トシオばひと目みればわがる

んだよ

あんたみだいにさぎまわりして

ダメだってゆってねえで

タエ子さんの気持ぢば聞いでみ…

タエ子さん!

そっとしでおげ

ほれみろ ものにはな

順序ってものがあるんだ

オレは悪かったど思っでねえよ

農家の嫁になる

思ってもみないことだった

そういう生き方が

私にもありうるのだというだけで

不思議な感動があった

“あたしでよかったら…”

いつか見た映画のように

素直にそう言えたらどんなにいいだろう

でも言えなかった

自分の浮ついた田舎好きや

真似事の農作業が

いっぺんに後ろめたいものになった

厳しい冬も農業の現実も知らずに

“いいところですね”を連発した

自分が恥ずかしかった

私には何の覚悟もできていない

それをみんなにみすかされていた

いたたまれなかった  

(アベ君) お前とは握手してやんねえよ

ハッ

(女の子) ねえねえ

今日 アベ君が着てたシャツ

なあになあに

4年の時 田中君が着てたやつよ

えーっ

内緒よ

アベ君てね アヒル当番の時

エサのパン おうちへ持って帰るのよ

ええーっ

アベ君の手のひら見た? すごいわよ

よかった 隣の席じゃなくて

タエ子ちゃん かわいそう

先生に言って

席替えしてもらいなさいよ

そうよそうよ

男同士で並べばいいのよ

ねっ タエ子ちゃん

私… 私は平気よ

そんなこと言うの アベ君に悪いわよ

平気なの?

なによ いい子ぶってさ

さっきの話 ぜったい内緒だからね

ハアッ ハアッ

ぶっとばされんなよ!

アベ君!

どうしたんですか こんなとこで

なんでもないの ちょっと歩きたくて

ぬれちゃってるじゃないですか

とにかく早く乗って

おみやげをね ちょっと…

おふくろの漬け物…

あの 本家には行かないで

え? どうして?

お願い どこでもいいから走って

どうかしたんすか

私の友だちに

アベ君ていう男の子がいたの

転校してきたの

私の隣の席になったの

アベ君が言ったの

「お前とは握手してやんねえよ」って  

アベ君はね

家が貧乏らしくて

体育着も持ってなかった

アカじみてて

ソデでズズッて鼻こすりあげたり

鼻くそグリンて指でほじくるの

それでちょっとイヤな顔するとすぐ

「なんだよ! ぶっとばされんなよ」って

すごむの

私 イヤでたまらなくて

早く夏休みが来ないかなって思ってた

それまで席替えないんだもん

オクラホマミキサー踊る時

手つなぐのもイヤだったし

宿題やってこないで

人のノートすぐ貸せっていうのも

イヤだった

女の子はみんな

ひそひそ アベ君のウワサをするの

エンガチョって

だけど

私 その仲間にだけは入らなかった

こそこそ陰口 言いあって嫌うのは

いちばん悪いことだって気がしてたから

ところがね

夏休みが来ないうちに

アベ君 また転校することになって

みんなとひとりずつ握手して

お別れしようって 先生が決めたの

みんないやがってる空気が

サーッと伝わって来たわ

アベ君の手のひらには

アカのような筋があったの

アベ君は

みんなの席をまわって

握手して歩くんだけど

コチコチに緊張してた

最後に自分の席戻って

私と握手して終わるはずだった

私が手さしだすと

アベ君が言ったの

「お前とは握手してやんねえよ」って

「お前とは握手してやんねえよ」って

アベ君のこと

いっとう汚いって思ってたのは

あたしだったのよ

アベ君はね そのこと知ってたの

だから握手してくれなかったんだわ

フウーッ ゴホン

本家でなんかあったんですか

私 子供の頃からそんなだったの

ただ いい子ぶってただけ

今もそう

うーん

今日は変ですね

タエ子さんらしくないなあ

本家で何言われたのか知らねえけど

あの ちがうの

本家には何の関係もないの

ごめんなさい

急に小学校の頃のこと思い出して

自分が情けなくなったの

だったらバカですよ そのアベ君は

じづはタエ子さんが好ぎで

別れだくなかっだから

握手しなかったのかも

しれないじゃないですか

まさか

アベ君が好きだったのは

学級委員の小林さんよ

あたしには強がってばっかり

ズボンのポケットに手を突っこんで

「大人ってのはなあ 葉っぱむしったり」

「ツバはいたりしながら歩くんだぞ」

「ケッ!」って

ヨタッて歩いてみせるのよ

ほら やっぱり

アベ君の気持ぢ わかりますよ

オレだって ちっちゃいどぎ

好ぎな女の子にワザといじわるして

泣かしたことあったもの

そんなんじゃないの

だってほかのみんなとは

一人残らず握手したのよ

しなかったのは私だけよ

これだから困るなあ 女の子は

男の子の気持ぢ

全然わがらないんだから

なによ 知ったかぶりして

じゃあ当てましょうか

アベ君は

そんなに強くながったでしょう

男の子にはすごんだり出来なかった

転校生だから友だぢもいない

タエ子さんは隣の席だったし

強がりを言ったりしやすかったんですよ

いじめるごどで

タエ子さんに甘えでいたんですよ

だいいぢ みんなと握手なんか

したいはずないですよ

タエ子さんには本音が出せたんですよ

「お前どは握手してやんねえよー」って

ペッ!

汚ねえことすんな

ペッ!

ペッ ペッ

ペッ

私…

アベ君に悪くて後ろめたくて

必死にアベ君の真似をしたの

でも 手おくれよね そんなことしたって

アベ君をイヤがって苦しめたことは

取り返しがつかないもの

あーっ 雨やみましたよ

あっ ほんと

月出てる

スーッ フウーッ

この辺 夜走ってるど

タヌキやテンによく出くわすんですよ

へえ  

そろそろ帰りましょうか

あーっ いけない

きっと本家で心配してるわ

いやあ

これはすーんごいウワサになっちゃうな

ごめんなさい

すっかりトシオさんに甘えちゃって

いったい本家で何があったんだろなあ

ねえ お願い それだけは

本家でも聞かないでちょうだい

田舎の音楽 かけますか

(音楽が流れる)

私は 自分がトシオさんを

どう思っているのか

トシオさんは私のことを

どう思っているのか

初めて考えようとしていた

偶然とはいえ 私のひねくれた心を

当のトシオさんに

解きほぐしてもらうなんて

どうしてこれほどトシオさんに

甘えることができたのか 不思議だった

トシオさんが

私より年上に思えた

私が今 握手してもらいたいのは

トシオさんだった

握手だけ?

この気持ちはなんなんだろう…

トシオさんをそばに感じながら

私は一心に考え続けた  

忘れものはないかい

はい だいじょうぶです

じゃ 冬に来るのを待ってますからね

ええ それまでに

少し勉強しとくわ 農業

あれ スキーじゃないんですか

まあ もっとも実践あるのみですけどね

スキーは

あのごど 考えでてけろな

タエ子さん

え? なに? ばっちゃん

なあに?

いやあ

オレとタエ子さんのヒミツ

うーん

きのうは何か変だったもんなあ

ごめんなさい 今度はだいじょうぶ

もう5年生の私なんか

連れてこないから

待ってけろーっ

元気でね ナオ子ちゃん

ハアッ

さよなら!

(ラジオの音)

♪さようなら さようなら

♪好きになった人

(拍手の音)

(♪愛は花、 君はその種子)

♪やさしさを 押し流す

♪愛 それは川

♪魂を 切り裂く

♪愛 それはナイフ

♪とめどない 渇きが

♪愛だと いうけれど

♪愛は花 生命の花

♪きみは その種子

(子供たちの笑い声)

♪挫けるのを 恐れて

♪躍らない きみのこころ

♪醒めるのを 恐れて

♪チャンス逃す きみの夢

♪奪われるのが 嫌さに

♪与えない こころ

♪死ぬのを 恐れて

♪生きることが 出来ない

♪長い夜 ただひとり

♪遠い道 ただひとり

♪愛なんて 来やしない

♪そう おもうときには

♪思いだしてごらん 冬

♪雪に 埋もれていても

♪種子は春 おひさまの

♪愛で 花ひらく  

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